タダタケ先生のこと

多田先生との出会いは1996年。アラウンドシンガーズのレセプションにもぐりこんでた時に北村先生からご紹介いただいたことを覚えています。さぞかしゴツイ人だろうと思っていたら、とても慎ましやかな初老の紳士で意外な感じを受けました。当時僕は大学3年生。次年度の東西四連の合同ステージの指揮を多田先生にお願いしていて実現した出会いでした。

客演指揮にあたって、多田先生は我々学生に合唱とはなんぞや、というものを(練習とは別に)講義してくださいました。先生自身が作られたレクチャー資料はB4で3枚にも及び、とても分かりやすい内容でした。言葉や実例がとてもユーモアに富んでてこれまた面白い!中でも最も先生の言われたことは、「聞き耳をたてる」ということで、アンサンブルの重要性を非常に丁寧に解説されました。これは正直意外でした。きっと日本語の歌い方などの言葉の重要性を話されるのだと思っていたら、それだけではなくハーモニー、様式感について非常に時間を割いて話されました。このレッスンは以降の僕の音楽作りに重要なポイントを与えています。

この四連の選曲で富士山を多田先生の指揮で、と言い出したのは僕なのですが、僕が学生指揮者を務めた年にタダタケを取り上げたのはこの四連合同のみで、単独では敢えて取り上げませんでした。当時、例えば定期演奏会で4つステージを構成するなら、「とりあえず1つはタダタケで…」という風潮があって、若かった僕はこれに反発しました。そのころは男声のレパートリー自体が少なかったこともあって、他のステージもバリエーションに乏しく、使いまわしが多かったものです。それで行き着いた結論は、「タダタケばっかりやってるから男声合唱のレパートリーが増えないんだ!」というもの。

この流れはおえコラにも引き継がれます。おえコラは「男声の新しいレパートリーを開拓していく」、という目標を初期から持っていますが、ゆえに敢えて多田作品をあまり取り上げませんでした。第1回演奏会で、当時の団長だったSさんの希望で富士山をやりましたが、組曲としてはそれだけ。あとは単発で「かけす」と「花火」を1回づつ。もちろん、多くのメンバーが「タダタケをやりたい」と言ってきました。そんな時、僕がいつも言っていたことは、「男声合唱という円があったとして、おえコラ(=男声合唱団)がある円周上の点に位置するとしたら、すぐ隣にタダタケはある。それほどタダタケは男声合唱団にとって近い存在なんだ。だからこそ、おえコラは敢えてその円周を反対に歩いて、タダタケに到達しようじゃないか」と。

レパートリーのこと以外にタダタケを取り上げなかった理由がもう一つありました。それは合唱団の目指す音色のことでした。多田作品は古今いたるところの合唱団で演奏され、また北村先生や畑中先生による優れた録音もあることから、そこから外れた演奏をすること、また異なった音色で演奏することはとても勇気のいることのように感じていました。前述の多田先生のレッスンを受けたとき、これまでの演奏とは違う音色でのアプローチが可能なのではないかと思った僕は、北欧の男声合唱の響きにヒントを得て男声合唱の新たな響きを目指してみようと思いました。特にレッスンの中で、映画監督を目指しておられた先生ならではの表現で、「音楽の中での視界の変化」について言及されました。視界とは、映画のカメラワークのことですね。例えば遠くの富士山を映していたカメラがグーッと引いて縄跳びをする子ども達に視界が移る、ようなこと。ハーモニーと視界の関連性、これを実現するには純正なハーモニーとこれまでの男声合唱にはない様々な表現が必要だったのです。そのためには、タダタケを「避けて通る」必要があると感じた僕は敢えて意識して取り上げませんでした(避けながらも少し取り上げたのは、今目指している音色がタダタケに通用するのか確かめたかったでしょうね)。

今、お江戸コラリアーずは新たなレパートリーを開拓する取り組みも継続しつつ、古今の名曲にも挑戦しようとしています。信長作品との取り組みからさらに三善・間宮作品にチャレンジし、そしてとうとう今年はタダタケ。タダタケのもつ、ハーモニー、様式感、遠近法を表現できるか、はたまた力不足に終わるか。おえコラの挑戦をどうぞお楽しみに。

ちなみに、今回タダタケを取り上げようと思ったのは、第4ステージで展開する世界の民謡を素材にした作品を探している過程でふとタダタケを聞いたとき、「日本だなぁ」と思ったのがきっかけでした。それはあたかも海外旅行に行って帰ってきた時のように。世界の作品を取り上げながら僕は日本を探していたのですね。いや、もしかしたらタダタケこそが男声合唱にとっての母国なのかもしれませんね(笑)。

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パンフに載せる指揮者挨拶を考えていて、勢いで書いてしまいましたが…さて、削るか(笑)

This entry was posted on 水曜日, 8月 12th, 2009 at 10:15 PM and is filed under おえコラ. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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